ディスプレイと聞けば、液晶やOLED、LEDなど、光を使って映像や文字を表示するものを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
そんな常識をひっくり返すようなユニークなディスプレイを製作したのが、ソフトロボティクス関連の作品を公開しているYouTubeチャンネル「soiboi soft」です。
今回公開されたのは、電球やLEDの代わりに「空気圧の変化」で64個のピクセルを表現する8×8ドットマトリクスディスプレイ。単純な模様を表示するだけではなく、なんと往年の定番ゲーム「Snake」まで動かしています。
オレンジ色のシリコーン膜そのものが画面になる
一見すると、このディスプレイはオレンジ色のゴム板のようにも見えます。
しかし、その下には8×8、合計64個の小さな空洞が並んでいます。空洞内部を真空に近い状態にすると、大気圧によって柔らかなシリコーン膜が内側に引き込まれ、表面に丸い「へこみ」が現れます。
このへこみひとつが、一般的なディスプレイでいうところの1ピクセルに相当します。
つまり、光っているか消えているかではなく、平らなのか、へこんでいるのかという物理的な形そのものを情報として利用しているわけです。
しかも、この表示は目で見るだけではありません。表面そのものが変形するため、触って状態を確認できる「触覚ディスプレイ」としての性質も持っています。

64個のピクセルに64個の電磁弁を付ける必要はない
さらに面白いのが、その裏側にある仕組みです。
64個のピクセルを個別に操作しようとすると、単純な構造では64個のバルブが必要になりそうです。しかし今回の装置では、8本の行と8本の列を組み合わせる「マトリクス方式」を採用しています。

使われているのは合計16個の小型ソレノイドバルブです。
まず8本の列側に表示したいパターンをセットし、その後に行をひとつずつ選択。選択された行の各ピクセルが列側の状態を読み取り、それを保持していきます。
一般的なLEDマトリクスにも似た考え方ですが、ここでは電気信号ではなく、3Dプリンターで作られた細い流路と空気圧が使われています。

「トランジスタ」のような仕事まで空気で行う
この作品で特に興味深いのは、表示部分を空気で動かしているだけではないところです。
内部には薄いシリコーン膜と3Dプリントされた空気の通り道が組み込まれており、圧力によって流路を開閉する仕組みが、電子回路におけるトランジスタのような役割を果たしています。
各ピクセルには状態を保持する仕組みもあり、一度へこんだピクセルは常に吸引し続けなくても、その状態を一定時間維持できます。
soiboi softではこれまでにも、このような「流体ロジック」を利用したソフトロボットや、空気圧で数字を表示する7セグメント式時計などを製作してきました。
今回の64ピクセル版は、その技術をより一般的なドットマトリクスディスプレイへ発展させたものといえそうです。

Snakeが遊べる程度には書き換えられる
もちろん、8×8なので解像度はわずか64ピクセルです。
それでも簡単な図形やアニメーションを表示できるほか、デモではゲームコントローラーを使い、「Snake」や「Pong」のようなシンプルなゲームを動かすところまで披露されています。
OLEDのように高速で映像を書き換えることはできませんが、オレンジ色の膜が「スッ」とへこみながら絵柄が変化していく様子は、通常のディスプレイにはない独特の面白さがあります。
「画面とは光るもの」というより、「画面そのものの形を書き換える」装置に近い感覚です。

実は完全な「無電源ディスプレイ」ではない
ここで注意したいのが、「Air Powered」という名前です。
表示面やピクセルの状態保持、内部のロジックには空気圧が利用されていますが、装置全体が電気をまったく使用しないわけではありません。
実際の試作機では真空を作り出すポンプのほか、16個のソレノイドバルブやそれらを制御するドライバーボード、制御用ボードなども使用されています。
そのため、「空気だけで動くコンピューター」というよりも、現段階では電子制御から送られてきた情報を、空気圧式の論理回路とメモリー、シリコーン製ピクセルを使って表示する実験装置と考えたほうが正確です。

商品化の予定はなし。それでも応用先は意外とありそう
それでも、通常なら電子部品が担当する仕事のかなりの部分を、空気の流れと柔らかな膜で実現している点は非常にユニークです。
今回公開された8×8ディスプレイはsoiboi softによる自作品で、記事執筆時点では市販品として販売されているものではありません。また、日本から購入・支援できるクラウドファンディングなども実施されていません。
しかし、こうした「物理的に状態が変化するピクセル」という考え方は、単なる面白工作だけにとどまらない可能性があります。
触って状態を確認できるため、視覚障害者向けのインターフェースや、表示を頻繁に更新する必要がない案内表示などへの応用も考えられそうです。
高解像度・高輝度・高速化を目指して進化してきた現代のディスプレイとは、まったく逆方向から生まれた64ピクセルの画面。
実用品になるかはさておき、「情報を表示するには本当に光が必要なのか?」と考えさせられる、なんとも面白い作品です。
via.Boing Boing


















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